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横浜地方裁判所 昭和61年(レ)72号 判決

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。) 大矢義武

右訴訟代理人弁護士 村野光夫

同 根本孔衛

同 杉井厳一

同 篠原義仁

同 児嶋初子

同 岩村智文

同 西村隆雄

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。) 小松洋一

右訴訟代理人弁護士 江森民夫

主文

一  本件附帯控訴に基づき、被控訴人が、別紙目録記載一、二1の各土地部分を建築基準法四三条一項の敷地として通行する権利を有することを確認する。

二  訴訟費用は、第一・二審とも、控訴人の負担とする。

事実

被控訴人は、当審において、附帯控訴により訴えを交換的に変更した。

第一当事者の求める裁判

一  被控訴人(附帯控訴による新請求の趣旨)

主文と同旨

二  控訴人(右一に対する答弁)

1  被控訴人の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、第一・二審とも、被控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  被控訴人(新請求原因)

1  控訴人は、川崎市宮前区菅生字柳町一六三五番一山林を所有していたところ、同土地は、昭和四九年、同所同番一・七ないし一二(以下、同所所在の土地は、地番のみで表示する。)に分筆され、被控訴人が、同番七の土地、三上勝彦が同番一〇の土地、三上英昭が同番一一の土地を、いずれも宅地として利用する目的で、また被控訴人、三上勝彦及び三上英昭が同番九の土地につき、各自四分の一の割合による共有持分を、いずれも同番七・一一の各土地への通路とする目的で、それぞれ控訴人から買い受けた(以下、三上勝彦と三上英昭とをあわせて「三上両名」という。)。右分筆後の各土地の位置関係は、別紙第二図面表示のとおりである(なお、同図面中、一六三五番二ないし六の各土地は、右分筆時、既に別筆となっていたものであり、同番一三の土地は、昭和五二年、同番一の土地から分筆されたものである。)。

2  被控訴人及び三上両名は、昭和五四年、一六三五番九の土地の使用方法について協議をし、被控訴人は、別紙目録記載二1の土地部分(以下、「本件二1の土地部分」という。)を、三上英昭は、同目録記載二2の土地部分(以下、「本件二2の土地部分」という。)をそれぞれ建築基準法四三条一項の敷地として通行する旨を合意した。

3  一六三五番七の土地は、公路に通じない袋地である。すなわち、右土地は、同番一・二・六・八・九の各土地に囲まれているが、同番一・六・八の各土地は、控訴人、同番二の土地は、大矢武師がそれぞれ所有し、同番九の土地は、1記載のとおり、控訴人、被控訴人及び三上両名が各自四分の一の割合で共有し、2記載のとおりに合意されている。そして、同番七の土地上に建物を建てるためには、建築基準法四三条一項(建築物の敷地が道路に二メートル以上接することを要求する。)により、控訴人所有の別紙目録記載一の土地部分(以下、「本件一の土地部分」という。)をも敷地として使用することが必要であり、かつその場所が、所有地の一部たる一六三五番七の土地を譲渡した控訴人のために損害の最も少ないものである。

4  控訴人は、被控訴人が本件一、二1の各土地部分を建築基準法四三条一項の敷地として通行する権利を有することを争っている。

5  よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件二1の土地部分については共有地の管理に関する事項についての持分の過半数をもってする合意(民法二五二条本文)、本件一の土地部分については民法二一三条二項に基づき、それぞれ建築基準法四三条一項の敷地として通行する権利を有することの確認を求める。

二  控訴人(右一に対する認否)

請求原因1は、認める。

同2は、否認する。

同3のうち、一六三五番七の土地が、同番一・二・六・八・九の各土地に囲まれていること、同番一・六・八の各土地は、控訴人、同番二の土地は、大矢武師がそれぞれ所有し、同番九の土地は、控訴人、被控訴人及び三上両名が各自四分の一の割合で共有することは、認めるが、その余は、争う。

同4は、認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2の事実(共有物管理の合意)は、《証拠省略》により、認めることができる。そうすると、控訴人は、民法二五二条本文により、右合意に拘束されるから、被控訴人は、控訴人との関係においても、本件二1の土地部分を建築基準法四三条一項の敷地として通行する権利を有するというべきである。

三  同3の事実のうち、一六三五番七の土地は、同番一・二・六・八・九の各土地に囲まれていること、同番一・六・八の各土地は、控訴人、同番二の土地は、大矢武師がそれぞれ所有し、同番九の土地は、控訴人、被控訴人及び三上両名が各自四分の一の割合で共有することは、当事者間に争いがなく、請求原因2記載のとおりに合意された事実が認められることは、二で説示したとおりである。

そして、《証拠省略》によれば、次のとおり認めることができる。

1  控訴人は、被控訴人に対し、一六三五番七の土地を売り渡した(請求原因1)際、これを宅地として利用することが可能である旨を保証したうえ、建築基準法の要請を満たして建物所有の目的を達成するため、公路から右土地へ至る幅員二・七メートルの通路を確保する旨を約した。当初は、右通路を控訴人・被控訴人両名の共有地とする予定であったが、その後、右趣旨のもとに、三上両名を加えた四名で一六三五番九の土地を共有して右通路に充てることになった(請求原因1)。

2  一六三五番七の土地は、その南側、西側及び北側の各隣接地には、建物が建てられ、右共有通路の東側の隣接地も、宅地としての利用が予定されているなど、その場所的環境から客観的にみて、宅地として利用されることが適切な土地である。

3  三上両名は、一六三五番九の土地の共有持分を譲り受けた際、本件二2の土地部分の面積に相当する代金を支払った(したがって、請求原因2記載の合意は、合理的なものであるということができる。)。

4  被控訴人が、一六三五番七の土地を宅地として利用するためには、建築基準法四三条一項により、道路に接する幅員二メートルの(敷地としての)通路の設定が必要である。ところで、一六三五番一・七ないし一二の各土地の分筆・譲渡の経過及び相互の位置関係(請求原因1)にかんがみると、右通路は、一六三五番八の土地に設定すべきである(民法二一三条二項参照)が、そのうち、本件一の土地部分以外の部分をこれに充てるとすると、控訴人の負担は、幅員二メートルに及び、控訴人所有建物の一部除去を免れない結果となる。これに反し、本件一の土地部分をこれに充てるとすると、本件二1の土地部分とあわせて幅員二メートルを確保することができるため、控訴人の負担は、わずか〇・三六三メートルにとどまり、控訴人所有建物の除去も要しない。もっとも、その場合でも、控訴人所有建物は、玄関の扉を開けることができなくなり(ただし、その位置を変えることにより、容易に解決することができる。)、日当たりや風通しが悪くなるなどの損害を被るけれども、現状において被控訴人の被っている損害(一六三五番七の土地を宅地として利用できないこと)と比べると、それ自体、さほど重大な被害とはいえない。加えて、控訴人所有建物の建築は、請求原因1記載の売買契約後に開始された(完成は、昭和五三年三月)のであり、被控訴人は、控訴人に対し、建築着手後間もなく、本件のごとき紛争の発生を予想し、注意を喚起した経緯があるから、右に述べた程度の被害は、控訴人において受忍すべきものといわなければならない。

以上によれば、一六三五番七の土地は、旧一六三五番一の土地を分筆・譲渡したことにより、わずかに幅員一・六三七メートルの通路で公路に接しているにすぎない袋地になったものであり、本件一の土地部分をその(敷地としての)通路とすることにより、宅地としての利用が可能となり、かつ控訴人所有の囲繞地に生ずる損害を軽微・最小のものとすることができるから、被控訴人は、民法二一三条二項に基づき、本件一の土地部分を建築基準法四三条一項の敷地として通行する権利を有すると認めるのが相当である。

四  請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

五  以上の次第で、被控訴人の請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条・八九条により、主文のとおり判決する。

なお、原判決は、当審における訴えの交換的変更により失効し、本件控訴事件は、その対象を失い終了したものである。

(裁判長裁判官 佐藤邦夫 裁判官 関洋子 村上正敏)

〈以下省略〉

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